上京


 このコーナーも、いつの間にやら「20話」の大台に乗っていたんですね。その21話にして、ようやく上京の話になるのですから、この先、どれほどの話数になるか計り知れません(苦笑)。

 さて、私が上京してまず転がり込んだ先は、このコーナーに何度も登場している「不思議な先輩」K添さんのアパートでした。
 都営地下鉄三田線の大和町駅から、東武東上線の中板橋に向かう途中にあったこのアパートは、当時どこにでもある…ような「安アパート」で、今思えば、漫画家の間で伝説となっている「トキワ荘」のようなアパートでした。
 四畳半一間に、半畳の炊事場と半畳の押し入れが設けられ、トイレは共同。玄関で靴を脱いで上がり、1階廊下には大きな洗面所…と、どちらかと言えば下宿と言った感じで、当時のごくごく一般的な安アパートでした。

その名も「ナガタ荘」

 そんな狭い部屋に、いきなり大男の私が転がり込んだのですから、K添さんも、さぞや迷惑だった事でしょう(苦笑)。けれども氏は「迷惑」なんて言葉は一言も口にしませんでした。まったく有難いことです。

 さて、当時このナガタ荘は、男性入居者だけのアパートで、1階と2階にそれぞれ4部屋ずつ設けられていました。K添さんの部屋は2階の奥の角部屋で、隣室にはE田さんという、当時立教大学の学生さんが住んでいて、K添さんと同じ年齢で、しかも両者ともギターを弾いていましたから、2人は隣室のよしみ…より密な間柄でした。ただ、E田さんはジャズ愛好者でしたが…。
 大学から帰ると、フルアコで奏でるジャズの音が、薄い壁越しに聞こえて来て、ついつい聞き惚れいましたっけ。

 E田さんは当時、勉学に勤しむ傍ら、夜はキャバレーやクラブ等で演奏していたと言いますから、ギターの腕前も相当だったのでしょう。残念ながら、人前での生演奏とか…は一度も観る事がなかったのですが、目の前で「これがクラプトン」とか「これはBBキング」とか言って弾いた時の音は、まさにその雰囲気が良く出ていてビックリしたものです。

 私にモダンジャズ…という音楽を教えてくれたのは、このE田さんでした。

 当時のジャズ界は、ちょうどCTIが台頭して来た時代で、ジョージ・ベンソンやガトー・バルビエリなど4ビートだけではない、ロック少年だった私にも取っ付きやすい感じのジャズが流れ始めていた頃でしたが、E田さんはウェスにご執心。ウェスはそうでもないかも知れませんが、他に聴く曲は、もっぱら難解なモダンジャズが多かったようです。

 そうそう、氏の部屋へ一歩足を踏み入れると、毎回決まって

今かかってる曲を叩いてるのは誰だ?

と問題を出されましたね。何問も…。これが、私が訪れた時の日課のようになっていました。
 始めのうちは全く解らなかったジャズドラマーの音も、叩き方も、毎日毎日質問されるうちに「何となく」解るようになり
「ロイ・ヘインズでしょ?」
の答えに「ほぉ〜良く解ったなぁ!」と、目を丸くして言ったE田さんの表情は、今でも目に浮かびます。

 そんなこんなで、私が生まれて初めて?購入した「JAZZ」のアルバムは、チック・コリアの「Now He Sings, Now He Sobs」でした(←左写真)
 今でも愛聴盤となっているこのアルバムは、その「ツンツクツンツク」と独特な音で、且つスピード感溢れるシンバルレガートの…私が初めて音だけで名前を覚えたジャズドラマー「ロイ・ヘインズ」が叩いています。
 まさに、ピアノトリオとは思えないほどの音の広がりと、アグレッシブな演奏が展開されています。

 様々なジャズを聴かせてくれたE田さんでしたが、ただひとつ残念だったのは「これがマイルスだ」と聴かせてくれたのが「ジャック・ジョンソン」だった事…。ジョン・マクラフリンのファズのかかったギターが、何とも気分が悪く、結局、この日聴いたアルバムが致命傷となり、その後20年近くにわたって「マイルス・デイビス」を聴かなかったんですから…(苦笑)。

(2006.2/28)


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